週刊税務通信 平成30年9月10日 №3522 より
家なき子特例、貸付事業用宅地等について、乱用したような節税策が目に余るので改正されています。
家なき子の趣旨
典型例として、「地方で一人暮らしをしている母親が亡くなって空き家になった実家を上京中で借家住まいをしている長男が相続する」というもの。長男がいずれ戻るであろう実家については、その土地の評価を優遇しましょうと。
被相続人に配偶者がいるとき、つまり、一次相続では配偶者が居宅を取得すれば必ず小規模宅地等の特例が使えます。配偶者の税額軽減も使える。そのかわり二次相続は辛い。ので、二次相続で登場するの優遇税制が家なき子。
確かに、基礎控除が縮小されたからといって、配偶者の税額軽減があるため、申告義務はあっても新規に納税が生じるケースはほとんどありませんからね。
家なき子を利用した節税策
家なき子の要件がシンプルだったがゆえに過度の節税に悪用されてしまった。
通常は相続人でない者が遺産を取得すると相続税は重くなるように制度設計されています。ラッキーな感じで財産をゲットしたんだから相続税はその分大目に払ってね、ということです。
- 基礎控除の計算には当然含まれない
- 死亡保険金の500万円非課税枠がない
- 債務控除も対象外
- 相続税の2割加算がある
その一方で、小規模宅地等については対象者が相続人に限定されていません。親族であればOKといった設計になっている。というのも、高齢の被相続人の介護をしていた亡き長男の嫁に居宅を遺贈するような場合を救済しているから。このあたり血が通っている相続税法の醍醐味なんですがこれが悪用されてしまったと。相続前に要件を整えておけば適用できてしまったのですね。
- 未成年の孫に遺贈で取得させてしまう
- 持ち家がある子供であれば、持ち家を同居する孫に贈与してしまう
- 持ち家がある子供であれば、持ち家を同族会社に譲渡して、以後は社宅として住む
- 田舎在住の高齢父に東京のタワマンを買ってそこに住んでもらうことでタワマンの敷地権に家なき子特例
- 親の土地に子が二世帯住宅を建てて同居しているケースで親が東京にタワマンを買って移住してしまう
4の場合、田舎の自宅は減額できないけれど、田舎の土地評価よりもタワマン敷地権の方がメリットがあるという計算の下で実行されているようです。
5の場合、小規模宅地等の特例の適用対象を実家からタワマンに入れ替えてしまう手法。とはいえ、ここまでやる人がいたのでしょうか。とんでもなく手間もかかりますし、何より実家を出てタワマンに住んでくれる高齢者がいるのかはなはだ疑問ですが、提案する業者はいたようで。
平成30年度税制改正で家なき子がどのように規制されたのか
持ち家に居住していない者に係る特定居住用宅地等の特例の対象者の範囲から、次に掲げる者を除外する。
- 相続開始前3年以内に、その者の3親等内の親族又はその者と特別の関係がある法人が所有する国内にある家屋に居住したことがある者(実質家なき子でない場合の除外)
- 相続開始時において居住の用に供していた家屋を過去に所有していたことがある者(実質移転がされていない場合の除外)
1は3親等内の親族に家屋を贈与してその後も居住を続けたら家なき子になることができない、という改正。
2は過去に自分が所有していた居宅に相続開始時に居住している者は家なき子になることができない、という改正。
4親等内の親族や過半数を支配していない法人に名義を変えた後に居住継続されたら1では否認できない。1でカバーできない節税に対応するのが2。
孫への遺贈スキーム→1で規制
未成年の孫は自分の親(1親等)の家屋に住んでいるので家なき子には該当しなくなります。3年縛りもあるので、祖父の自宅を遺言でもらうことになっている孫が相続直前にアパートに移住してもダメ。逆に言えば、3年経過後なら家なき子になれる。が、3年も準備をしてこんなスキームを実行できる人はほとんどいない。そこを見込んでの改正なのでしょう。
持ち家のある子が持ち家を同居する孫に贈与スキーム→1と2で規制
子は3親等内の親族(孫)の家屋に居住しているし、かつ、過去に所有していた家屋に居住している者でもある。
同族会社に譲渡スキーム→1で規制
「特別の関係がある法人が所有する国内にある家屋に居住したことがある者」に該当するため。
厳しくなり過ぎた家なき子の改正
母親が東京の大学に通う息子のために東京に分譲マンションを母名義で購入し、息子が居住する場合、息子は母親(3親等内の親族)の家屋に居住しているので母親に相続があったときには、母親が住んでいる実家について家なき子特例が使えない。さらに、息子がマンションから引っ越しても3年間は家なき子に該当しない。
母親だったらまだしも、叔父さんの名義でも家なき子に該当しない。
貸付事業用宅地等の改正
貸付事業用宅地等の範囲から、相続開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地等(相続開始前3年を超えて事業的規模で貸付事業を行っている者が当該貸付事業の用に供しているものを除く)を除外する。
趣旨としては、タワマンや商業ビルの区分所有権を取得して貸付事業用宅地等の50%減額を受けるという節税の防止。
キーワードは「事業的規模」で、5棟10室基準。
貸室3室が事業的規模と認められ国側が敗訴する事例がある(東京地裁平成7年6月30日)。この判例では、100㎡のフロア全体が1室で、賃料もそれなりの金額、管理業務にも労力が費やされていたことから社会通念上事業と言い得るものと判断されています。この判例を契機として、事業的規模が廃止され、「建物又は構築物の敷地」であること、という現行の要件に改正されているという経緯がある。今回の事業的規模復活により再燃する可能性あり。
ちなみに、事業的規模は相続開始時の瞬間風速ではなく、「相続開始の日まで3年を超えて引き続き」となっているので駆け込みは不可能。
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関東信越税理士会東松山支部 経理部長
関東信越税理士会埼玉県支部連合会 会員相談室相談員
嵐山町固定資産評価審査委員会 委員
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