事業承継対策における信託の活用法

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日税ジャーナル第23号 より

~非上場会社の相談事例をもとに~ 税理士法人タクトコンサルティング宮田房枝税理士

  • A社代表取締役 甲
  • 長男 乙(後継者)
  • 7年計画で事業承継を予定
  • 乙の他に丙(長女)あり

今後株価高騰が予測されるため評価額の低い今のうちに乙に贈与したいところ、7年間は議決権は甲が確保しておきたい。

つまり、「A社株式の価値」と「A社株式の議決権」を分けたいと。

信託を活用しない場合

  1. 現時点でA社株式を甲から乙に贈与
  2. 現時点で拒否権付株式を1株発行して甲が保有、それ以外の普通株式を乙に贈与
  3. 事業承継完了後(7年後)、A社株式を乙に贈与
  4. 甲死亡時に遺言でA社株式を乙へ遺贈

1の問題点

議決権も甲が手放すことになる。

2の問題点

拒否権付株式といっても一定の決議事項の拒否ができるにとどまり、積極的に会社の意思決定に関与できないし、発行手続、消却手続が煩雑。それと書いてないけれど、謄本に登記されてしまうのもネックかと。

3の問題点

株価高騰の予測から、贈与税負担増。7年のうちに甲が死亡した場合、乙が確実に株式を承継できる保証もない。

4の問題点

遺言には書換え、偽造、紛失のリスクあり。乙が確実に株式を承継できる保証はない。お家騒動で空白期間ができたらそれこそ問題。もちろん贈与税負担増も。

信託を活用する視点

「A社株式の価値」と「A社株式の議決権」を同時に乙に移転していいなら信託の必要性は乏しい。どちらかを甲に残したい場合は信託の出番。

1.指図権を設定した他益信託

  • 甲(委託者、指図権者)議決権の行使方法を指図
  • 親族X(受託者)議決権行使
  • 乙(受益者)利益を享受

2.自己信託

  • 甲(委託者、受託者)信託宣言、議決権行使
  • 乙(受益者)利益を享受

3.指図権を設定した自益信託

  • 甲(委託者、受益者、指図権者)議決権の行使方法を指図
  • 乙(受託者)指図に基づき議決権行使

信託を活用するうえでの主な注意点

  1. 公正証書で作成
  2. 遺留分の配慮
  3. 現行法上、信託財産の非上場株式は納税猶予制度適用不可
  4. 他益信託設定の場合で特に株価が高額となるときは精算課税も検討
  5. 現経営者の認知症に備え、信託行為中に予備的な定めをする
  6. 後継者が現経営者より先に死亡した場合、事業を承継しない場合、後継者候補変更の場合に備え、信託行為中に予備的な定めをする
  7. 現経営者を受益者とする自益信託を設定する場合、受益者が認知症になる恐れがあるときは、受益者代理人の選任条項記載
  8. 信託期間中に「受益者が存しない信託」とならないよう、当初想定していた受益者がすべて死亡した時点で信託終了などの定めをして、税務上の法人課税信託となることを回避

信託が話題になってまだ日が浅いですが、認知症による信託の失敗事例が出てくるのは時間の問題かと思っています。

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埼玉県東松山市の関根盛敏税理士事務所まで
関東信越税理士会東松山支部 経理部長
関東信越税理士会埼玉県支部連合会 会員相談室相談員
嵐山町固定資産評価審査委員会 委員

@smoritoshi

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