税務弘報 2016年7月号
特集 相続税務最新事情・傾向の落とし穴
相続税申告の落とし穴―代償分割の調整計算
弁護士 坂田真吾先生
代償分割における代償債務は財産評価基本通達による評価額ではなく、時価によって算出されることが通常なので、その差額を調整計算する必要があります。
税理士試験で相続税を選択していると、この計算も授業でやりますので、ご存知の方は多いはず。でも実際にやっているかというと疑問です。
というのも、税理士不在で相続人の方だけで代償分割を決めてしまうこともあり、「先に言ってくれよ…」というのはたまにあります。相続人間で納得しているので特に問題にはなりませんが。
それに、この調整計算について相続人の方たちに説明しても「???」って顔をされて、おそらく理解できていないんだろうなぁという経験もしばしばあります。
最終的な数字を見せると取得財産の価額が平等になるので「そういうことですか」とご理解いただけますが。
<相続人>
甲、乙、丙(各法定相続分1/3)
<相続財産>
自宅 時価1.8億円、相続税評価額1.44億円
マンション 時価9,000万円、相続税評価額8,100万円
<遺産分割>
甲が自宅取得
乙がマンション取得
丙は時価を基準に現金で代償分割(時価1.8億円+9,000万円=2.7億円の1/3で9,000万円取得)
時価だと。
- 甲 1.8億円×1/3=6,000万円 ⇒ 乙と丙に支払う(調整前)
- 乙 9,000万円×1/3=3,000万円 ⇒ 甲と丙に支払う(調整前)
ここで、時価と相続税評価額の差額割合(相続税評価額/時価)をみると。
- 甲 1.44億円/1.8億円=0.8
- 乙 8,100万円/9,000万円=0.9
この差額割合を時価での上記代償金額に乗じて。
- 甲 6,000万円×0.8=4,800万円 ⇒ 乙と丙に支払う(調整後)
- 乙 3,000万円×0.9=2,700万円 ⇒ 甲と丙に支払う(調整後)
結果、以下のとおりで、各7,500万円ずつの取得となって公平になる。
取得不動産 (相続税評価額) |
支払う代償金 | 受け取る代償金 | 合計 | |
---|---|---|---|---|
甲 | 1.44億円 | △9,600万円 | 2,700万円 | 7,500万円 |
乙 | 8,100万円 | △5,400万円 | 4,800万円 | 7,500万円 |
丙 | 0 | 0 | 7,500万円 | 7,500万円 |
遺産分割をするときに、税理士は相続税評価額を参考にしてしまいがいちですが、実際は時価です。いわんや小規模宅地等の特例適用をや。注意されたし。
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嵐山町固定資産評価審査委員会 委員
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