相続によりインボイス発行事業者の事業を承継した場合の留意点

Pocket

週刊税務通信 令和5年10月9日 №3772より

税理士森田修先生

インボイス発行事業者が死亡した場合でも、インボイスの交付に空白期間が生じることがないよう制度的な手当てがされています。

インボイス発行事業者が死亡した場合の届出

そもそも課税事業者が死亡した場合には、その個人事業者の相続人は、「個人事業者の死亡届出書」を速やかに被相続人の納税地の所轄税務署長に提出しなければならないところですが。

死亡した者がインボイス発行事業者である場合には、これに代えて「適格請求書発行事業者の死亡届出書」を提出する必要があります。

適格請求書発行事業者の死亡届出書を提出した場合には、個人事業者の死亡届出書の提出は不要。

さらに、その相続人(インボイス発行事業者を除く)が、インボイス発行事業者である被相続人の事業を承継する場合には、適格請求書発行事業者の死亡届出書にその旨を記載する。

真ん中あたりに「相続による届出者の事業承継の有無」欄がありますね。

死亡したインボイス発行事業者の登録の効力

インボイス発行事業者の登録の効力は被相続人だけで、相続人には承継されず、被相続人に死亡と同時に消滅するが、死亡と同時にインボイスの交付が行われなくなると取引先がインボイスの交付を受けられないという事態が生じ、取引当事者間で支障が生じることから、一定の間は登録の効果を継続させることとし、次のいずれか早い日に失効させることとしている。

  1. 死亡により「適格請求書発行事業者の死亡届出書」が提出された日の翌日
  2. 死亡した日の翌日から4月を経過した日

実務上は、準確定申告書の提出と同時に死亡届出書を提出することになるので、1になるのでしょうかね。

インボイス発行事業者でない者が事業を承継した場合

事業を承継した相続人が自身もインボイス発行事業者であれば問題はありません。

事業を承継した相続人がインボイス発行事業者出なかった場合、インボイス発行事業者の登録申請をしてから登録まで一定期間が必要ですので、相続人の登録が完了するまでは何らかの猶予を設定する必要があります。そこで、このような場合には、相続のあった日の翌日から次に掲げる日のいずれか早いまでの期間(=みなし登録期間)は、その相続人をインボイス発行事業者の登録を受けた事業者とみなすと同時に、そのみなし登録期間中は、被相続人の登録番号を相続人の登録番号とみなすことができるとされる。

  1. その相続人がインボイス発行事業者の登録を受けた日の前日
  2. その相続に係るインボイス発行事業者が死亡した日の翌日から4月を経過する日

つまり、みなし登録期間中は、被相続印の登録番号を事業承継した相続人の登録番号とみなすので、この間は、被相続人の登録番号は失効しない。

みなし登録期間の延長

とはいえ、何らかの理由で登録申請が遅れることもあるわけで。その場合の救済措置として、事業承継した相続人がみなし登録期間中に登録申請をした場合に、みなし登録期間の末日までにインボイス発行事業者の登録に係る通知がないときは、その末日の翌日から通知がその相続人に到達するまでの期間は、みなし登録期間とみなすこととされている。

ここまでをまとめると。要するに。

相続開始後4か月以内=準確の期限内に、インボイス発行事業者の登録申請をしておけばOKということですね。

みなし登録期間後の被相続人に係るインボイスの交付義務の承継

相続人は、被相続人のインボイス交付義務も承継されることから、仮に相続人が事業を承継しなかった場合でも、取引先から被相続人が行った資産の譲渡等につきインボイスの交付を請求されたらみなし登録期間後であっても交付する必要がある。

返還インボイスも同様。

免税事業者である相続人が事業を承継した場合の棚卸資産の調整

事業承継した相続人が免税事業者であっても、みなし登録期間中はインボイス発行事業者の登録を受けた者とみなされるため、事業者免税点制度の適用はない。

つまり、相続開始日に免税事業者であった者は、免税事業者であった期間中の課税仕入れ等に係る棚卸資産で、相続開始日に有するものの仕入税額については、みなし登録期間の課税仕入れ等の税額に加算することとなる。棚卸資産の調整があるということですね。

これは失念する可能性が非常に高い。

例えば、床屋や学習塾のような消費者等を取引先とするためインボイス発行事業者の登録を受けていなかった免税事業者が、テナントビルの賃貸業を営んでいたインボイス発行事業者である父親の事業を承継したような場合がこのケースに該当。

登録日前後に相続があった場合の2割特例の適用の可否

2割特例は、免税事業者である個人事業者が令和5年10月1日からインボイス発行事業者の登録を受ける場合、令和5年(10~12月分のみ)、令和6年、令和7年、令和8年と合計4回申告の対象となります。

この2割特例、相続のあった日が、登録日の前後で適用関係が異なるので注意が必要。

令和5年10月1日からインボイス登録の免税事業者。

令和5年6月30日に相続により課税事業者である父の事業を承継した場合

→2割適用不可

令和5年10月31日に相続により課税事業者である父の事業を承継した場合

→2割適用可

登録日後に相続があった場合は、予期せぬ相続により課税期間の途中から2割特例の適用が受けられないのは不適当との理由。

【関連記事】

相続・贈与・譲渡・遺言・事業承継・法人についてのご相談は
埼玉県東松山市の関根盛敏税理士事務所まで
関東信越税理士会東松山支部 経理部長
関東信越税理士会埼玉県支部連合会 会員相談室相談員
嵐山町固定資産評価審査委員会 委員

@smoritoshi

Pocket

タイトルとURLをコピーしました