週刊税務通信 令和2年11月9日 №3629 より
実例から学ぶ税務の核心 大阪勉強会グループ著
最高裁判決による所得税基本通達59-6が改正されているところですが。
今回の最高裁においては、譲渡所得課税の趣旨から、少数株主の判定も譲渡人による旨を判示。国側の主張を支持する形ではあるが、国税庁では所得税基本通達59-6において、少数株主の判定も譲渡人で行う旨を明記するよう、通達の改正が検討される方向。
最後の補足意見として通達の規定がわかりずらいということで酷評されていましたので、実務上の取扱いは変更せずにわかりやすいように書き直しました、ということでした。
ところが、パブコメの国税庁回答を見ると、従来から取り扱いが変更になっているじゃないか、というので驚いているという話。
経過としては。
非上場株式の評価において配当還元方式を採用したことを否認されて訴訟になりましたと。
- 生前に社長が75円/株で72.5万株を関係会社に譲渡。
- 譲渡により社長の持株比率15.88%→8%、同族関係者ベースで22.79%→14.91%となり、持株比率の引下げ成功
- 社長が死亡、相続人が配当還元価額75円/株で準確定申告
- 課税庁は配当還元ではなく類似業種比準価額により2,990円/株として算定、75円が1/2未満のため低額譲渡として更正処分(その後、異議決定により2,990円→2,505円に)
税務訴訟(課税処分取消請求訴訟)
- H29.08.30 東京地裁 納税者敗訴
- H30.07.19 東京高裁 納税者勝訴
- R02.03.24 最高裁 納税者実質敗訴
ここで問題となるのは、東京高裁の納税者勝訴にあたり、財産評価基本通達の文理解釈が重視されたことです。もちろん、通達において文理解釈はありえません。
したがって、この通達の具体的な運用に当たっては、法令の規定の趣旨、制度の背景のみならず条理、社会通念をも勘案しつつ、個々の具体的事案に妥当する処理を図るように努められたい。いやしくも、通達の規定中の部分的字句について形式的解釈に固執し、全体の趣旨から逸脱した運用を行ったり、通達中に例示がないとか通達に規定されていないとかの理由だけで法令の規定の趣旨や社会通念等に即しない解釈におちいったりすることのないように留意されたい。
もちろん、最高裁は通達の文理解釈による配当還元方式の適用を否定して、納税者敗訴。
ここで59-6において、納税者は何を文理解釈したのかといいますと。
まずは所得税法基本通達59-6ですが。
個人から法人に取引相場のない株式を譲渡した場合の時価が規定されています。取引相場のない株式は原則として財産評価基本通達により算定します。つまり、相続税や贈与税を計算する場合と同様。が、所得税は財産を譲渡した者が課税され、相続税贈与税は財産を取得した者が課税されることから、59-6(1)において「同族株主」に該当するかどうかは、株式を譲渡直前の議決権の数により判定することとしています(相続税、贈与税においては「後」)
この通達を見たうえで、上記事例に当てはめてみると。
同族株主の判定は譲渡「前」だが、同族株主のいない会社の議決権割合による判定は規定されていないから、取得「後」の議決権割合で判定すべきと納税者側は主張しているわけです。
(1) 財産評価基本通達188の(1)に定める「同族株主」に該当するかどうかは、株式を譲渡又は贈与した個人の当該譲渡又は贈与直前の議決権の数により判定すること。
上記は所得税基本通達59-6(1)の抜粋ですが、もう少し詳しく説明しますと。
188の(1)というのは、同族株主のいる会社の株式のうち、同族株主以外の株主が取得した株式の評価について規定している通達です。これについては配当還元価額で評価です。
つまり、
配当還元価額で評価できる「同族株主がいる会社」の「同族株主」は、譲渡の「直前」で判定。
とうことになります。
そもそも同族株主がいない会社なのだから、これには該当せず、59-6を適用して財産評価基本通達を修正して計算する必要はない、という主張でした。
最高裁は、譲渡所得とはそもそも、譲渡者が所有していた期間の値上がり益に対する課税ですから、配当還元ではなく譲渡者の会社支配力に応じた評価方法を用いるべきとして高裁差戻となりました。
で、確かに59-6はわかりずらいから改善するようにという補足意見が付いたことで今回の改正です。
読むと余計に読みづらくなったような気がしますが…
で、ここでもうひとつの裁判が紹介されています。
民事訴訟(税理士損害賠償請求事件)
- H31.01.31 東京地裁 納税者敗訴請求棄却
- R01.08.28 東京高裁 納税者敗訴請求棄却
- R02.07.30 最高裁 上告不受理決定
この税賠訴訟における原告は上述した税務訴訟は提起していない、と。税理士が間違えたのだから、税理士が納税額相当の損害賠償をせよ、と。
結果的には原告が敗訴しているのですが、上述したように税務訴訟において地裁、高裁の迷走が顧問税理士を援護射撃した格好になっている、と。
なるほどですね。
結果、パブリックコメントですが。
注目すべきは3です。
今回の通達改正では、本件通達の(1)の条件に係る現行の取扱いがより明確になるように見直しが行われるとのことだが、同通達の(2)の条件に係る、類似業種比準価額の計算上、乗じる斟酌割合(評基通 180)についても、現行の取扱いがより明確になるよう通達の見直しを要望する。
御意見については、本件通達の(2)の文理上明らかであるため、通達の見直しの必要はないものと考えます。
本件通達の(2)は、「財産評価基本通達179 の例により算定する場合において」としていることから、評基通 179 の適用に当たっての取扱いになります。したがって類似業種比準価額の計算上、乗じる斟酌割合(評基通 180)については、評価会社が大会社の場合は 0.7、中会社の場合は 0.6、小会社の場合は 0.5 になります。なお、今後国税庁ホームページに上記取扱いの解説を掲載する予定です。
通達の見直しが必要ないと言っているその下で、59-6による小会社としての斟酌割合を大会社0.7、中会社0.6、小会社0.5になると明記しています。
これは実務上の取扱いではLの割合0.5、斟酌割合も0.5としていたはずですが、実は違った、ということが明確にされたということになります。「詳説自社株評価」においてもそのように記載されいる、と。ただ、「法人税基本通達の疑問点」では疑問を呈していたといころではあったようです。不勉強にして知りませんでしたが。斟酌割合も0.5だと思っていました。
税務ソフトでは自動計算されていない状態ですので、要注意。
4も要注意。
譲渡又は贈与に係る株式の発行会社の株式を純資産価額方式で評価する場合において、当該発行会社が子会社等の株式を有しており、当該発行会社が当該子会社等の「中心的な同族株主」に該当するときには、本件通達の(2)の取扱いに準じて、当該子会社等が評基通 178 に定める「小会社」に該当するものとしてその例により当該子会社等の株式を評価することを明らかにしていただきたい。
御意見として承ります。
なお、本件通達の趣旨に鑑みると、御意見のとおり評価することになると考えま
す。
おって、今後国税庁ホームページに上記取扱いの解説を掲載する予定です。
評価対象会社が保有している子会社株式については、評価対象会社が小会社に該当すれば、その子会社も小会社として評価することが明確に。
知りませんでした。
で、4の場合に子会社株式においても土地、上場株式等は時価評価で、ということです。
まとめると。
税務訴訟の結論については、驚きはないものの、改正された通達が読みづらくなった感は否めない。
取扱に変更はないといいつつも、パブコメで明らかになった方針変更があるので、要注意。
とくに子会社評価する場合の斟酌割合はLが0.5だからといって0.5としてはダメで、大中小会社によってそれぞれ0.7、0.6、0.5となる。
評価対象会社が小会社だった場合、その小会社の子会社株式の評価においても、小会社評価することとなり、当然その子会社株式については土地等は時価評価となる。
子会社を抱えているところは実務が煩雑になる一方で、取り扱いが明確にはなった、と。
そして、そもそも税理士の中には59-6の存在自体を知らない人が多いのでは、と。
また、個人から法人への自社株譲渡という手法自体が疑問で、59-6による評価が財産評価基本通達より高くなりすぎるのでは、と。
これは以前から良識ある地元に根差した税理士からは疑義のあったところです。
相続税は抑えられたけど、譲渡所得による所得税が高額になって、本末転倒になってしまったというのは金融機関から提案されたスキーム実行した後から聞く話ではありましたので。
良く整理された内容で、勉強になりました。
相続・贈与・譲渡・遺言・事業承継・法人についてのご相談は
埼玉県東松山市の関根盛敏税理士事務所まで
関東信越税理士会東松山支部 経理部長
関東信越税理士会埼玉県支部連合会 会員相談室相談員
嵐山町固定資産評価審査委員会 委員
@smoritoshi