田中慎弥 『孤独論: 逃げよ、生きよ』

book

芥川賞作家田中慎弥氏による人生論。

芥川賞の授賞式のときに、「(石原)都知事閣下云々」言った人のイメージしかありませんで。

ですから、氏の小説は読んだことがなかったのですが、これは響きました。膝を打つこと限りなし。

私、この人、好きです。

ということで、小説も読んでみようと思いました。

P16
「奴隷」とは、有形無形の外圧によって思考停止に立たされた人を指します。
日々精力的に働き、規則正しい生活を送っていて、自分は健全だと思っている人でも、客観的に見れば奴隷になっているというケースもままあります。

P30
奴隷状態から逃げようとするとき、実家は非常に有効です。実家の親御さんに勘当でもされていない限り、いったん実家に逃げ込みましょう。自分は一人前に働いていいるんだといった、取るに足らないプライドは捨てます。

P33
逃げたあと、いったん避難して一息ついたあと、冷静な頭で将来のことをきちんと考えればいい。思う存分考えて、次の行動に移る。大切なのは、逃げたら、そこからは能動的な思考を継続していくということ。主体性、能動性、そういったものを取り返すための避難なのですから。

P64
料理を作れ
食の楽しみを満たすには、せめて食材を切って、煮たり焼いたりの段取りくらいは自分でこなした方がイイに決まっています。

P79
孤独を拒んでなしえることなど、なにひとつありません。自分のやりたい道に舵を切れば、必ず孤独に直面します。そこはたえるしかない。そして耐えられるはずです。孤独になるのは当たり前のことなのですから。

P88
わたしは職業柄、言葉や論理というものを日々、使っているわけですが、言葉や論理といった数値化できない能力であっても、油断すればたちどころに衰えます。小説を書けば書くほど、言葉は枯れて、硬直していく。
だから書くこと、つまりアウトプットすることと並行して、本を読み続けることも欠かせません。そうして新鮮な言葉や論理を常に自分の中に取り入れ、育む。育んだそれをしかるべき機会に駆使する。そしてまた取り入れる。その繰り返しです。
あえて難解な本を読みこむことも、わたしの職業的能力を高め、維持するうえで大切なことのひとつです。わからない本を、わからないと思いながら読むのは直接的な収穫にはつながりにくい。でも、うんうんと唸りながら理解しようと努力することで、いわば無駄な力を出し切ることができる。そうしないことには、小説を書くうえで、先には行けないという実感があります。
(中略)
わたしはいつも小説の書き出しで悩みます。ああしよう、こうしよう、あれこれ考えて、なにかを書いてはそれを破り捨てて、ということを延々とします。無駄な時間です。なにも生産していない。破り捨てた原稿はもちろんお金にならない。
でもそこで力を消費したあとに、スムーズに書ける瞬間が来る。すなわち本番に臨めるわけです。
となると、逆説的な言い方になりますが、自分の目指すところが定まり、そこにたどりつくために費やした手間隙は、ひとつたりとも無駄にはならない。

P91
独りの時間、孤独の中で思考を重ねる営みは、あたなを豊かにします。そうした準備、練習が、仕事に幅をもたらす。あなたを解放する。
毎日忙しくて、思考を重ねるなんて悠長なことをやっている暇はない。あなたがもしそう思うのであれば、あなたのいまいる環境は、望ましいものではない。あなたがやっていることは惰性であり、思考停止です。仕事の奴隷になりかねない。

P98
先達はいつも豊かな学びをもたらしてくれます。なにかをしようとするときは、具体的なだれかを思い浮かべるのがいい。尊敬できる上司、家族、歴史上の人物。あの人ならこういう状況ではどうするのだろう、まずどういう行動をとるだろうか、あるいは、あの人はあのやり方でうまくいったけど自分は別のルートで頂上を目指す方が向いているかもしれない、そうやってだれかに自分を重ねながら考えてみると、思いもよらぬ打開策が見いだせるものです。

P107
でも、目に見える効率とは無縁である代わりに、読書はあなたに可能性をもたらしてくれます。あなたを耕して豊かにしてくれる。いままでとらわれ、硬直してしまいそうな、あなたの考えや価値観を揺さぶり、先を切り拓くための手掛かりを授けてくれる。

P124
言葉は後天的に獲得するものです。何もしなければ蓄えられず、外から仕入れる以外に術はありません。幼児の頃はだれしも言葉を盛んに取り込みますが、大人になってからも同じことをやり続けなければならない。
(中略)
みずから積極的に手を伸ばしてつかんだ言葉でなければ、十分な用をなしません。日々意識しないと、言葉は本当に目減りして、やがて枯渇してしまうのです。
するとどうなるか。言葉はわたしたちの考える素です。行動を決めるのも言葉です。枯渇すれば、能動的に活動することがままならなくなる。何度も述べてきたように、それは思考停止を意味する状態であって、あなたは望まない環境に閉じ込められても、それに抗えない奴隷となります。言葉は本来の自分を保つための武器なのですから、ゆめゆめ疎かにしてはいけません。

P135
奴隷になるな、孤独から活路を見出せ、生き抜くための武器は言葉である。

P149
今でも必ず一日一回は机の前に座ります。一行しかかけない日もありますが、とりあえず鉛筆を持って原稿用紙に向かう。それしかやるべきことはないし、他になにかをやろうとも思わない。

P158
どんな職種であれ、惰性は通用しません。もし惰性で仕事がこなせたとしたら、それは立場に甘んじているだけのことであって、生き方として二流です。奴隷の生き方です。
大企業の肩書を手にしたのなら、なおのことそれに負けないように奮起する。肩書とは、ぶら下げるものであって、ぶら下がるものではない。あなたを高めるための道標です。

P164
実際に親戚の叔父などからは「おまえ、そろそろなんとかしろよ、お母さんが苦労しているんだから」というようなことを言われるわけです。当然です。
でもわたしは「それはそうだけど、そういっているこの叔父さんは、川端康成じゃないしな」などと思っていた。「川端の小説はおもしろいけど、教師や親戚が言うことは、響くものじゃない」と聞き流していました。
引きこもりの分際でと言われそうですが、生活は規則正しいものでした。いつも朝八時くらいに起きて、朝ご飯を食べて一日をスタートさせる。健康的な引きこもりだったのです。

P178
一握りの大天才、モーツァルトや、陸上のウサイン・ボルトのような人は、棚の上に乗っかって自分で餅をひったくってくるのでしょう。そうではない凡人でも、しかるべき場所で、きちんと準備をして待てば、落ちてくる餅を手にすることはできます。努力と運は、けっこう密接に結びついているものです。なにかの結果は、努力のゆえでもあり、運のなせる業でもあります。
 

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