委任関係は存在、業務禁止処分は適法 顧問先法人の代表者の相続で書面を交付した税理士に対して

Pocket

税のしるべ 令和4年6月13日

亡くなった顧問先法人の代表者の相続税の申告に当たり、相続財産として計上しなければならないと認識していた財産を計上せず、同代表者の長男の相続税の課税価格を圧縮した申告書を作成したとして、業務禁止処分を受けていたことに対し、処分の取り消しを求めていたが、東京地裁は6月3日、両者間に委任関係は存在していたと認めるのが相当として処分は適法とする判決を下した。

概要だけ読むと、そんなもんかと流してしまいそうになりますが、よく読むと税理士の立ち位置としてはなかなかに示唆的です。

税理士は長男と相続税の申告について複数回面談し、相続税の申告書の様式を用いた書面を使用して相続税の申告に係る説明をし、書面を長男に交付。これに基づき、長男は相続税の申告。

このあと、長男は別の税理士に修正申告の作成を依頼して提出。重加算税課税。相続財産の一部を認識していたにもかかわらず計上せず、真正の事実に反する申告書を作成したとして当初申告の税理士に業務禁止の処分。

当初申告の税理士は、長男に事実上のアドバイスをしたにすぎず、そもそも長男から税務代理及び税務書類作成を受任していない、報酬も受領していない、として委任関係は存在していないと主張。

地裁は、長男に交付した書面は国税庁が相続税の申告手続に使用する様式として提供しているものと同一で、そのまま税務署長に提出すれば申告書としての体をなすものであったことから「税務書類」に該当すると指摘、長男から税額等の計算の相談を受けてこれに応じたうえで申告書の作成に協力することを約していたものといえ、委任関係が存在していたと認定。有償無償は関係ない、署名押印がないことも無関係。

さて。

途中でどのような経緯があって、代理権限証書も付けず、そもそも、税理士に依頼をしなかったのかは不明ですが。これはあり得る話でしょう。

特に、相続税のe-Taxが可能となり、さらには押印が不要となった現在はさらに状況は複雑です。

勝手に相続税の申告書を提出されてしまう可能性は否定できません。

相続税の概要を説明するにあたり、相続税の申告書の様式を使うことはよくあります。そのとき、押印が不要ということですから、それをそのまま提出されてしまうこともあるわけで。

当事務所ではその場合に備えて、「案」という押印をしたものを概算の説明時等には手交しています。今後これはさらに徹底して他にも対策を講じる必要があるかもしれませんね。

相続人との関係が希薄であったり、そもそも一見さんであることが多い相続税の申告では10か月の間での意思の疎通はやはり難しいと思わせる事案です。自戒したいところです。

【関連記事】

相続・贈与・譲渡・遺言・事業承継・法人についてのご相談は
埼玉県東松山市の関根盛敏税理士事務所まで
関東信越税理士会東松山支部 経理部長
関東信越税理士会埼玉県支部連合会 会員相談室相談員
嵐山町固定資産評価審査委員会 委員

@smoritoshi

Pocket

タイトルとURLをコピーしました